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広島高等裁判所松江支部 昭和57年(行コ)1号 判決

鳥取県米子市米原五六四番地

控訴人(第一審昭和五二年(行ウ)第六号事件原告)

高林機材株式会社

同所

高林鉄道資材株式会社

同所

高林通商株式会社

同所

控訴人(第一審昭和五二年(行ウ)第六号事件、昭和五六年(行ウ)第一号事件各原告)

高林興産株式会社

米子市夜見町二八八〇番地

高林工業株式会社

右控訴人ら各代表者代表取締役

高林健治

右訴訟代理人弁護士

多田紀

米子市西町一八番地の二

被控訴人

米子税務署長

梶尾克己

右指定代理人

佐藤拓

秦正弘

坂田弘

小下馨

新田勝久

田中悟

高地義勝

青笹勝徳

右当事者間の昭和五七年行コ第一号法人税額等更正処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人高林機材株式会社(以下「控訴人機材」という。)に対し

(一) 昭和五一年八月三一日付でした同控訴人の昭和四八年六月一日から昭和四九年五月三一日までの事業年度(以下「昭和四八事業年度」という。)、昭和四九年六月一日から昭和五〇年五月三一日までの事業年度(以下「昭和四九事業年度」という。)の各法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(二) 昭和五一年一二月一〇日付でした同控訴人の昭和五〇年六月一日から昭和五一年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五〇事業年度」という。)の法人税についての更正処分

(三) 昭和五四年三月二三日付でした同控訴人の昭和五一年六月一日から昭和五二年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五一事業年度」という。)の法人税についての更正処分並びに昭和五二年六月一日から昭和五三年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五二事業年度」という。)の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

を取り消す。

3  被控訴人が控訴人高林鉄道資材株式会社(以下「控訴人鉄道資材」という。)に対し

(一) 昭和五一年八月三一日付でした同控訴人の昭和四八事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(二) 同日付でした同控訴人の昭和四九事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、昭和五二年六月三〇日付裁決により一部取り消された後のもの)

(三) 昭和五一年一二月一〇日付でした同控訴人の昭和五〇事業年度の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(四) 昭和五四年三月二三日付でした同控訴人の昭和五一事業年度、昭和五二事業年度の各法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

を取り消す。

4  被控訴人が控訴人高林興産株式会社(以下「控訴人興産」という。)に対し

(一) 昭和五一年八月三一日付でした同控訴人の

(1) 昭和四八事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(2) 昭和四九事業年度の法人税についての第三次更正処分

(二) 昭和五一年一二月一〇日付でした同控訴人の昭和五〇事業年度の法人税についての更正処分

(三) 昭和五四年三月二三日付でした同控訴人の昭和五一事業年度、昭和五二事業年度の各法人税についての更正処分

(四) 昭和五五年一二月一九日付でした同控訴人の昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五三事業年度」という。)、昭和五四年六月一日から昭和五五年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五四事業年度」という。)の各法人税についての更正処分

を取り消す。

5  被控訴人が控訴人高林通商株式会社(以下「控訴人通商」という。)に対し

(一) 昭和五一年八月三一日付でした同控訴人の昭和四八事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(二) 同日付でした同控訴人の昭和四九事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、昭和五二年六月三〇日付裁決により一部取り消された後のもの)

(三) 昭和五一年一二月一〇日付でした同控訴人の昭和五〇事業年度の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(四) 昭和五四年三月二三日付でした同控訴人の昭和五一事業年度、昭和五二事業年度の各法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

を取り消す。

6  被控訴人が控訴人高林工業株式会社(以下「控訴人工業」という。)に対し

(一) 昭和五二年二月一五日付でした同控訴人の昭和四八事業年度の法人税についての第三次更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(二) 昭和五一年六月三〇日付でした同控訴人の昭和四九事業年度の法人税についての更正処分及び過少加算税の賦課決定処分

(三) 昭和五一年一二月一〇日付でした同控訴人の昭和五〇事業年度の法人税についての更正処分

(四) 昭和五四年三月二三日付でした同控訴人の昭和五一事業年度の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(五) 昭和五四年三月二三日付でした同控訴人の昭和五二事業年度の法人税についての更正処分

(六) 昭和五五年一二月一九日付でした同控訴人の昭和五三事業年度の法人税についての更正処分

(七) 同日付でした同控訴人の昭和五四事業年度の法人税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

を取り消す。

7  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決

二  被控訴人

主文同旨の判決

第二当事者の主張

次のとおり付加・訂正するほか、原判決事実 第二 当事者の主張記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三丁表二行目、五行目、一一行目、同丁裏二行目、九行目にそれぞれ「(1)」とあるのを「〈1〉」と、同丁表八行目、同丁裏五行目にそれぞれ「(2)」とあるのを「〈2〉」と、同丁裏六行目「(3)」とあるのを「〈3〉」と各訂正する。

2  同一四丁裏一二行目「同 資材」とあるのを「同 鉄道資材」と訂正する。

3  同四一丁表四行目、同四六丁表四行目、同丁裏一行目、同五一丁表七行目の各「更正」欄及び同四三丁裏六行目、同四四丁表四行目、同四八丁裏六行目、同四九丁表五行目、同五一丁表一行目の各「更正・決定」欄にそれぞれ「五四、三、二〇」とあるのをいずれも「五四、三、二三」と各訂正する。

4  同四八丁表八行目「更正・決定」欄の総額「四二〇、五〇〇」とあるのを「四二二、五〇〇」と訂正する。

(当審における新たな主張)

一 控訴人

1  本件各更正処分の理由附記の不備

控訴人らの昭和四八、四九事業年度の確定申告に対する更正処分の理由は、寄附金として合算された金額について第一高林産業と第二高林産業に各帰属する額が不明であり、また控訴人らの昭和四八ないし五二事業年度の確定申告に対する更正処分の理由は保証料計算の基礎となる金融機関からの借入金総額の内容が不明であるから、これら更正処分の理由附記は記載が不備であり、従ってこれら更正処分は違法であって取り消されるべきである。

2  本件各更正処分の手続上の瑕疵

被控訴人は、控訴人らの昭和四八ないし五〇事業年度の確定申告について控訴人らの帳簿を調査せず商業手形を保証料の計算の対象として更正処分をしているが、保証料計算の基礎となる金額は不明である。同五一、五二事業年度の確定申告については、長期借入金のみについて帳簿調査が行われたが、商業手形の金額の調査はなく、商業手形を保証料計算の対象としないで更正処分をしているのであって、右各更正処分は調査方法を誤った手続上の瑕疵があるので、いずれも取り消されるべきである。

更に、被控訴人は控訴人らの負担した保証料の計算に際し、昭和四八ないし五〇事業年度では商業手形の金額を保証料計算の対象としているにもかかわらず、同五一、五二事業年度では対象としていないのであって、これは課税における同一条件同一負担の原則に反し違法であるから、この点からもこれら更正処分はいずれかが取り消されるべきである。

二 被控訴人

1  控訴人らの右主張は控訴人らの故意又は重大な過失により時機におくれてしたものであって、訴訟の完結を遅延させるものであるから、民訴法一三九条により却下されるべきものである。

2  仮に、控訴人らの右主張が時機におくれた攻撃防御方法に当たらないとしても、本件各更正処分にはその理由附記の不備若しくは調査方法に関しての手続上の瑕疵はない。

すなわち、本件各更正処分の理由附記には、昭和四八、四九事業年度では負担金の支出先として第一高林産業と第二高林産業を掲げ、当該事業年度中の支出負担金総額を明示しており、それは、控訴人らが右二社との間で締結した契約書に基づき、課税所得の計算の基礎とした総勘定元帳等に負担金として計上していた金額であり、しかもそれらは、昭和四九事業年度を除いては、昭和五二事業年度まで、すべて原審において争いがなかったもので、被控訴人は各更正処分当時負担金については欠損金補てんの目的や算出方法から同一性格と認め、親会社という略称を用いて右二社に対する控訴人らの各支出総額を記載したものであるから、本件各更正処分の理由附記に不備はない。

また、本件各更正処分にあたっては、被控訴人の所部係官が控訴人らの帳簿調査はもとより、取引先調査等により必要な調査及び資料の収集を行ったうえ慎重な審理をしており、恣意性の介在とか不誠実な調査によるというような手続上の瑕疵は存しない。

第三証拠関係

原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所も控訴人らの被控訴人に対する本訴各請求はいずれも棄却すべきものと判断するものであって、その理由は次のとおり付加するほか原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張について)

一  控訴人らの当審における新たな主張が民訴法一三九条にいう時機におくれた攻撃防御方法に当たるか否かについて検討するに、右主張はいずれも当審において初めて主張されたものであるところ、控訴人としては本件各更正等通知書を受け取ったときに既にその事由を知りえて原審においても当初から主張できたものである。しかしながら、右各更正等通知書はすべて甲号証として、また更正処分に際してした調査資料等も甲号証及び乙号証として、更に調査に当たった被控訴人の所部係官も証人としてそれぞれ原審において既に取調ずみであることに鑑みれば、右主張によって当審の審理の完結が格別遅延するものとは考えられず、したがって右主張が民訴法一三九条により却下さるべきほどのものではないといえる。

二  そこで、控訴人らの右主張の理由の有無について検討する。

まず、本件各更正処分の理由附記の不備の有無についてみてみると、成立に争いのない甲第六ないし第一〇号証の各一ないし三、第五六ないし第六〇号証の各一、二、前掲乙第一三号証と原審証人宅野彊の証言によると、被控訴人のした控訴人らの確定申告に対する各更正処分の理由として、昭和四八、四九事業年度では第一高林産業(当時の高林開発)と第二高林産業の二社を、同五〇ないし五二事業年度では第三高林産業をそれぞれ親会社としたうえ、控訴人らがそれらの事業年度に親会社に支払った負担金の額及び贈与(寄付金)と認めて損金に算入しない額と算入しない根拠、そのうち保証料として認めて損金不算入額から除外するものがあればその額とその算出根拠である控訴人らの金融機関ごとの当年最高借入残高・年間平均料率とその金額をそれぞれ附記して控訴人らに通知したこと、しかし、昭和四八、四九事業年度における各更正等通知書の更正理由は、支払負担金額について親会社二社の合計額を掲げただけで、各社別の額を掲げなかったこと、また、右保証料として認定した算出根拠である金融機関ごとの当年最高借入残高についてその内訳まで逐一具体的には掲げなかったこと、昭和四九事業年度の支払負担金額は、被控訴人の所部係官が控訴人ら代表取締役兼親会社の代表取締役高林健治から提示を受けた「負担金賃借料内訳」(乙第一三号)記載の親会社二社ごとの支払負担金額の合計額と全く同額である(なお、昭和四八、五〇ないし五二事業年度の各支払負担金額は当事者間に争いがない。)ことの各事実を認めることができ、これらの認定に反する証拠はない。

ところで、更正通知書に更正の理由を附記する趣旨は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることにあると解すべきところ、本件についてみると、各更正処分の理由が支払負担金額、損金算入額を明示して、その根拠を示しており、昭和四九事業年度を除いては支払負担金額について当事者間に争いがなく、同事業年度についても、前示高林健治から提示を受けた親会社各社別の支払負担金額の合計額と同一額であるから、控訴人らは昭和四八、四九年度について親会社二社各別の支払負担金を容易に知ることができるものであり、次に、保証料相当額については、被控訴人は原審においてその主張を変更したので、保証料計算の基礎である金融機関からの借入金の具体的内容の記載の不備の主張は前掲を欠くものであるが、本件各更正処分のうち、保証料を認定したものはその理由中において、前示のとおり、最高借入残高、年間平均料率等を明示しているのであるから、保証料の額はたやすく算出できるものであって、これらに加え本件各更正処分は更正の理由附記において損金不算入の根拠も明らかにしているのであるから、前示更正処分の理由附記の趣旨に照らしても、更正処分庁の判断の慎重、合理性が担保されているというべきであり、控訴人らも右理由の附記を検討して損金不算入の額を争い不服申立てを現にしているものであって、本件各更正処分の理由附記に不備はないというべきである。

そこで進んで、本件各更正処分の手続上の瑕疵の有無について検討すると、前掲各証拠によれば、被控訴人の所部係官は右各更正処分のための調査として、昭和五一年三月ごろから同年八月ごろまでの間に五、六回第三高林産業に赴き、高林健治並びに前田総務課長らからいわゆる高林グループの損益計算書、控訴人らの資産表、負担金支払に関する契約書等の提示を受けるとともにその説明を受け、これとは別に控訴人らの取引先金融機関等に対して控訴人らとの取引について文書で照会して回答をえていたこと等を認めることができ、甲第一一三ないし第一一六号証の記載によっても右認定を左右せず他に右認定を覆すに足りる証拠はないので、控訴人らの更正処分の調査方法としては相当であったものと認められる。したがって、控訴人らの主張する手続上の瑕疵があるとは考えられない。

更に、本件更正処分が同一条件同一負担の原則に違反するとの主張については、そもそも右主張は同一事業年度における各納税者に対する更正処分の課税基準の運用、解釈に差異があってはならない趣旨と解されるが、本件においては弁論の全趣旨に照らし同一事業年度においては控訴人らは同一基準により平等に課税、更正処分を受けているものと認められるのであって、同一納税者について複数の事業年度にわたる場合に課税基準の解釈・運用に差異があったとしても何ら違法とはいえない。しかも本件では、被控訴人は昭和五五年三月一三日付被告準備書面(六)(原審第一〇回口頭弁論期日において陳述)によって、前示のとおり更正処分において保証料の一部を損金と認定したのを改めたことが記録上明らかであって、いずれにしても控訴人らの右主張は失当である。

よって、原判決は相当で、本件控訴はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田辺博介 裁判官 萩原昌三郎 裁判官 安倉孝弘)

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